Santa Maria del Fiore（花の聖母教会）
丁寧に手作りされたウエディングドレスのような大聖堂。この教会とこの教会を戴くフィレンツェの街には、花嫁という言葉が持つ積極的なイメージのすべてが当てはまる。
この街を訪れた者はこれを見て、若々しく華やかで洗練された印象を決定的なものとして持ち帰る。一方、この街の住人の自己イメージもまた、この建物の影響を少なからず受けてきたことでしょう。フィレンツェの街が現在に至るまで美しくあり続けられたのは、完成以降この街を常に見守ってきた、この建物の影響力によるところが大きかったのではないか、と思わずにはいられないほどにです。
唐突に現われる超現実。道を歩いて来て、ふと角を曲るとこれほどのものに出会うのです。
この教会の外観（外皮）が、フィレンツェの人々の自己イメージに及ぼしてきた影響の重さは想像に難くない。
文句のつけようのない完成度を誇るジョットの鐘楼（Campanile de Giotto）。高さ82m。
長きにわたる建設工事の間には、人も街も世界の情勢も、プロジェクトをとりまくあらゆる状況が変化せざるを得ません。建設は常に変りやすい状況の中でどうにかこうにか遂行されて行くものです。にも拘らず、その工事期間が175年に及んだにも拘わらず、これほどの規模の建物が一定した工芸品的完成度でまとめられているということは驚嘆すべき事実です。
華麗な外観に反してというよりも、花嫁の内面と形容するに相応しく、内部は装飾の少ない簡素な仕上となっている。見せ物小屋よろしく絵や彫刻で埋め尽くしたりするよりも、構造そのものの美しさが表われて余程好ましい。
カッチリと組上げられた石組の精度はもはや機械の領域。
地下には4世紀のサンタ・レパータ教会の遺構が眠る。
大聖堂正面の洗礼堂（Battistero S. Giovanni）。八角堂で、大聖堂にやや先立つ。一見すると大聖堂に近い色大理石による外皮だが、少し異なる。しかしながら、この少しがもたらした結果の差は決定的なものに違いなく、大聖堂の外観デザインがこの先例の枠から半歩出ることができたという幸運は、まさにこの街が祝福されていた証左のようにさえ思われます。