Family Guest House
世界中から様々な人々がやってくる魅惑的なゲストハウス。部屋にはいくつかのグレードがありますが、基本的には安宿の雰囲気、設備、価格です。しかし他の安宿とひと味違うのは、大人数の家族親類が暮らすバリの一般的住宅のような建物の配置であること、ゲストハウスのスタッフが、スタッフと言うよりもホームステイのホストファミリーのような雰囲気であることです。ただ、これが重要な点ですが、家族的な雰囲気など簡単に表現してしまうことは適切ではありません。単にほかの人々との触れ合いが密なわけでもおせっかいなわけでもないのです。ここではプライバシーを尊重されたい、一人あるいはカップルで静かに過ごしたいと思えば、ごく自然に気兼なくそれができます。しかし誰かと話したい、なにか情報や助けを得たいと思えば極めて簡単にそれもできます。そのようなバランスを実現しているのは(このバランスこそがこのゲストハウスが他から際立って人気を集めている理由であると思われます)、ひとつにはスタッフのゲストに対する距離感、そしてその舞台となる敷地と建物、その配置の妙にこそあるのです。
ウブドの街の中心からはやや外れた場所にあり、バイクの利用が便利。
プライバシーを重視した門の構成はバリの定番。門をくぐって中に入ると、すぐ右に二階建ての建物。このように大きな面積を吹き曝しとすることもバリの住宅の定番であり、ここでくつろいだり食事をしたり睡眠をとったり家事を行ったり仕事をしたりする(一般的な住宅の場合の話ですが、このゲストハウスでもそれは当てはまります)。
二階建ての建物には隣接して厨房や事務所のある建物があり、その前面に取り付く形で吹き曝しの食堂のような部分があり、ゲストやここを訪れた人、スタッフが利用するラウンジのようになっています。が、私が到着した次の日には改築工事が始まり、すぐに取り壊されてしまいました。
ひとつの敷地のなかにつくられた複数の家族が暮らす住居群、のような配置がもたらしているのは、他人と空間を共有する低いレベルの触れあい、そこからより高いレベルの触れ合い(会話を交わす、一緒に何かを行うといった触れあい)へと発展する可能性を豊富に含んだ状態であり、高いレベルの触れ合いを望むゲストは、その度合いに応じて部屋を出、テラス(吹き曝しのスペース)から声をかけ、あるいはまた敷地内を散歩したり出かけるために通路を歩いたり、食堂(ラウンジ)に出て腰を掛けるなどすれば良いのです。
宿泊した部屋はやや奥まったところにある2つの客室が連続した建物。ここでもやはり、テラスが主たる生活の場であり、室内は着替えや寝るためにしか使われる程度。
隣にはドイツ人のカップルが宿泊していたのですが、お互いにテラスで過ごしていても不思議なほど気になりませんでした。仕切りもなにもないのですが、ひとつだけ考えられる理由は、ベンチの高さの違いです。
一方は低く地を這うような、他方は座りにくいほどに高く。座り方の異なる椅子を上手く配置して視線を制御するやり方は、この街のカフェやレストランなどでも良く見られるテクニックでした。くつろぐ、心地良く過ごす、ということに関して、身になる成果が日々得られたのがこのバリの旅でした。
私が宿泊したのは建物に向って右側の、高いベンチがある方ですが、まったくもってこのベンチの安逸なことといったらありませんでした。寝て良し、ダラけて良し。食事しては寝る、お茶を飲んでは寝る、寝転がって本を読む、パソコンを使う。ベンチ上部にあるのは祭壇で、毎日ファミリーの人が御供物を捧げます。
昼夜を問わず、室内はかなり暗い。安宿の常で、窓にガラスは嵌っておらず、網戸のみ。一応カーテンはついているが、ほとんど気休め。誰も覗き込まないから成り立っているだけで、完全にプライバシーが護られているわけではありません。音も完全に筒抜けですが、視線と同様、不思議と気にはなりませんでした。備品としてはもう少し物を置ける棚があればといったところ。細かいようですが、こういうことは意外なほど部屋の使い勝手を左右します。